Schip解答
知覚した現象を、知覚できない素粒子の「実在」を確証するための証拠たらしめているのは、現代の物理学理論以外にはありえないということ。(61字)
思考の目次
構成フェーズの議論 〜指示語を的確に捉える〜
構成フェーズの議論 〜傍線部の構造〜
読解フェーズの議論 〜素粒子の存在主張の根拠〜
読解フェーズの議論 〜知覚可能性・観察可能性〜
読解フェーズの議論 〜「実在」について〜
表現フェーズの議論 〜「ほかならない」の処理〜
「素粒子の飛跡」が素粒子の「実在」を示す証拠であることは、量子力学を基盤とする現代の物理学理論に依拠して初めて保証される
表現フェーズの議論 〜要素の結合〜
間接的証拠にすぎない素粒子の飛跡による、観察不能な素粒子の「実在」の確証は、現代の物理学理論に依拠して初めて保証されるということ。(65)
間接的証拠にすぎない素粒子の飛跡に依拠した、観察不能な素粒子の存在の主張は、現代の物理学理論に依拠して初めて保証されるということ。(65)
間接的証拠にすぎない素粒子の飛跡によって示される、観察不能な素粒子の実在の説得性は、現代の物理学理論に依拠して初めて保証されるということ。(69)
Schip解答
理論的存在は、理論から独立して実在性を主張できないものの、理論的手続きを経て実在性を保証されており、単なる想像の産物ではないということ。(68字)
思考の目次
【構成フェーズ】指示語を的確に捉える
【構成フェーズ】傍線部の構造
【意味フェーズ】理論的存在とは?
科学哲学では、このように直接的に観察できない対象のことを「理論的存在(theoretical entity」ないしは「理論的構成体(theoretical construct)」と呼んでいます。
その意味では、素粒子の『実在』の意味は直接的な観察によってではなく、間接的証拠を支えている物理学理論によって与えられていると言うことができます。
【意味フェーズ】理論的虚構について
【意味フェーズ】実在と虚構の違いについて
見聞臭触によって知覚的に観察可能なものだけが「実在」するという狭隘な実証主義は捨て去らねばなりませんが、他方でその「実在」の意味は理論的「探究」の手続きと表裏一体のものであることにも留意せねばなりません。
【表現フェーズ】実在と虚構という意味をブラッシュアップすると
理論的存在は、直接知覚できないけれども、理論や証拠によって実在することを把握できる存在であって、そこに理論的につくりあげられたものだという意味は全く含まれないということ。
理論的存在は直接的に知覚できないが、理論的手続きの下で実在として認識可能で、理論によって恣意的に生み出されたものではないということ。
Schip解答
歴史的出来事は、知覚しうる個々の事物ではなく、歴史学の理論と手続きを前提として思考される、事物の関係の総体であるということ。(62字)
思考の目次
構成フェーズの議論 〜カギ括弧の処理〜
意味フェーズの議論1 〜「フランス革命」や「明治維新」〜
社会科学の大部分の対象は、すべてではないにせよ、抽象的対象であり、(中略)『戦争』や『軍隊』ですら抽象的概念である
歴史記述の対象は(中略)関係の糸で結ばれた『事件』や『出来事』」とある。
意味フェーズの議論2 〜「関係の糸」とは?!〜
素粒子が「実在」することは背景となる物理学理論のネットワークと不即不離なのであり(後略)
物理学に見られるような理論的「探求」の手続きが、「物理的事実」のみならず「歴史的事実」を確定するためにも不可欠
歴史的事実は過去のものであり、もはや知覚的に見たり聞いたりすることはできませんので、その『実在』を主張するためには、直接間接の証拠が必要とされます。
意味フェーズの議論3 〜「知覚」と「思考」とは?!〜
歴史的事実は過去のものであり、もはや知覚的に見たり聞いたりすることはできませんので、その「実在」を主張するためには、直接間接の証拠が必要とされます。また、歴史学においては史料批判や年代測定など一連の理論的手続きが要求されることもご存じのとおりです。
歴史記述の対象であり、歴史学理論のネットワークと手続きによって、その実在が証明された抽象的対象・抽象的概念である「事件」や「出来事」は、過去のものであるため直接知覚することはできず、歴史学理論のネットワークと手続きによって初めて実在を主張できるものであるということ。(133字)
表現フェーズの議論 〜冗長な内容をまとめる〜
歴史記述の対象であり、抽象的対象・抽象的概念である「事件」や「出来事」は、過去のものであるため直接知覚することはできず、歴史学理論のネットワークと手続きによって初めて実在を主張できるものであるということ。(102字)
歴史的記述の対象は、抽象的概念であり、過去のものであるため直接知覚することはできず、歴史学理論のネットワークと手続きによって初めて実在を主張できるものであるということ。(84字)
歴史的記述の対象は、抽象的概念であり、過去のものであるため直接知覚することはできず、歴史学理論のネットワークと手続きを前提に構成されるものであるということ。(78字)
歴史的記述の対象は、過去のものであり直接知覚することはできず、歴史学理論のネットワークと手続きを前提に構成される抽象的概念であるということ。(70字)
Schip解答
理論も物語りも探究の手続きである。物理学における素粒子が、単なる想像の産物ではなく、理論によって実在性が確保されるのと同様に、歴史的出来事も直接的に知覚することはできないが、物語りのネットワークによってその実在性を確保されるものであるから。(120字)
思考の目次
構成フェーズ:なにが問われているか?
意味フェーズ:歴史的出来事とはなにか?
以上の話から、物理学に見られるような理論的「探究」の手続きが、「物理的事実」のみならず「歴史的事実」を確定するためにも不可欠であることにお気づきになったと思います。 [……] 歴史的事実は過去のものであり、もはや知覚的に見たり聞いたりすることはできませんので、その「実在」を主張するためには、直接間接の証拠が必要とされます。また、歴史学においては史料批判や年代測定など一連の理論的手続きが要求されることもご存じのとおりです。その意味で、歴史的事実を一種の「理論的存在」として特徴づけることは、抵抗感はあるでしょうが、それほど乱暴な議論ではありません。
歴史記述の対象は「もの」ではなく「こと」、すなわち個々の「事物」ではなく、関係の糸で結ばれた「事件」や「出来事」だからです。
「理論的存在」と言っても、ミクロ物理学と歴史学とでは分野が少々かけ離れすぎておりますので、もっと身近なところ、歴史学の隣接分野である地理学から例をとりましょう。われわれは富士山や地中海をもちろん目で見ることができますが、同じ地球上に存在するものでも、「赤道」や「日付変更線」を見ることはできません。確かに地図の上には赤い線が引いてありますが、太平洋を航行する船の上からも赤道を知覚的に捉えることは不可能です。しかし、船や飛行機で赤道や日付変更線を「通過」することは可能ですから、その意味ではそれらは確かに地球上に「実在」しています。その「通過」を、われわれは目ではなく六分儀などの「計器」によって確認します。計器による計測を支えているのは、地理学や天文学の「理論」にほかなりません。
この「理論」を「物語り」と呼び換えるならば、われわれは歴史的出来事の存在論へと一歩足を踏み入れることになります。
意味フェーズ:物語り的存在とはなにか?
その確信は、言うまでもなく『陸奥話記』や『古今著聞集』をはじめとする文書史料の記述や『前九年合戦絵巻』などの絵画資料、ある いは武具や人骨などの発掘物に関する調査など、すなわち「物語り」のネットワークに支えられています。このネットワークから独 立に「前九年の役」を同定することはできません。
だいいち「前九年の役」という呼称そのものが、すでに一定の「物語り」のコンテクストを前提として います。つまり「前九年の役」という歴史的出来事はいわば「物語り負荷的」な存在なのであり【……】
意味フェーズ:なぜ、歴史的出来事は、物語り負荷的存在だといえるのか?
その存在性格は認識論的に見れば、 素粒子や赤道などの「理論的存在」と異なるところはありません。
フィクションといった誤解をあらかじめ防止しておくならば、それを「物語り的存在」と呼ぶこともできる
歴史的出来事とは、物理学における理論的存在と同様、直接知覚できないものの、理論的虚構ではなく、理論と証拠によって存在主張ができる。したがって、それ自体として存在主張することができず、関係の糸の中でしか存在できないという意味で、物語り負荷的な存在である。
表現フェーズ:解答をブラッシュアップする
歴史的出来事は、直接知覚できないが理論によって実在性を確保されるため虚構ではない。それゆえ認識論的には、それ自体として存在が確証されないが、複数の事象や証拠を関連付けることで実在性を確保されるという意味で、物語り負荷的だといえるから。(117)
歴史的出来事は、知覚不可能であり、直接的証拠によって独立に示されるものではないが、だからといって想像の産物だというわけではなく、その実在性は、歴史学の理論的手続きによって複数の間接的証左や事象を関連付けることによって保証されているから。(118)
歴史的出来事の存在は、物理学における素粒子などと同様に、直接的に知覚できないが、史料批判などの理論的手続きに保証された間接的証拠に基いて実在性を保証されるという意味で、一定のネットワークに支えられて初めて実在性を確証できるものであるから。(119)
粒子は直接知覚することはできないが理論的手続きのもとで実在性が確保される。同様に、歴史的な出来事も、直接知覚できないが恣意的な虚構物ではなく、様々な資料をもとに形成された意味のネットワークの中に位置付けられることで実在性を確保されるから。(120)